深沢俊太郎

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深沢俊太郎の部屋
Shuntaro Fukasawa
「醒学」(醒世姻縁伝研究)


■醒学一号「《醒世姻縁伝》の勧め」
1)はじめに
2)凡例
3)弁語(序文)
4)後記(中州古籍出版社・醒世姻縁伝)
5)再販後記(中州古籍出版社・醒世姻縁伝)
6)醒世姻縁伝の勧め

(3)弁語(序文):
弁 語
深沢俊太郎 訳
 孟子云うところの「五倫」とは、儒教で人として守るべき五つの道を指す。人間関係を規律したその五つの道、人倫道徳とは、「君臣に義あり、父子に親みあり、兄弟に順序あり、朋友に信(まこと)あらしむ、そして、夫婦に別(くべつ)あり」の五つで、どれもみな重要視せねばならぬものばかりである。しかし、古来、何人の忠臣を得たであろう、いったい幾たりの孝行の子を得たであろうか、互いに敬い合う兄弟はどのくらいいたであろう、志を同じく、道をともにした友達は幾人いたであろうか? そして、お互い深い愛で結ばれた夫婦においてすら然り、分をわきまえ、持ち分を守る夫婦はいったい幾組あったであろうか。

 では、忠臣に成らず、孝行の子にならず、兄弟仲良く出来ず、良友を作れない、これは、いったいどこに原因があって起こることなのであろうか? それは、多くの人が夫婦というこの一倫だけに気をとられ、そこに溺れてしまうことから起こるのである! 人の心というものは、正直なもので、夫婦の情というものに過度に溺れると、他の四つの人倫道徳への気配りは自ずと希薄なものとなる。男は全神経全精力を閨房内に向け、女の歓心を得ようと、ご機嫌取りに夢中となる。ここで女は喜びを味わうのであるが、男は僅かに女から快楽を得るものの、男子漢としての人格人品を失うこととなる。奇妙なことに、この種の男は、自分の妻をまるで生き菩薩でも仰ぎ見るかのように崇め奉り、四倫へ向けねばならないはずの気遣い心配りすべてを、その女の身上にそそぎ込む。夫が妻に対して、まるで子羊のようにニコニコ愛想顔を見せ、妻といや、獅子が吼えでもするような猛々しいきつい女と化し、握りこぶしを振り上げ、子羊のようにおとなしい夫を虐待する。そんな妻に夫は生みの母親にでも尽くすように、なんでも言いなり、従順極まりない。かたや妻の方はそんな夫に、まるで継母のように、意地悪をし、きつくあたる。殿方は、まるであの関龍逢や比干が桀王、紂王に仕え忠誠を尽すように、ご婦人に忠節を尽くし、ご婦人は、まるで暴虐無尽の夏の桀王や殷の紂王が、清廉潔白直諌の士関龍逢や比干を殺害するように、何のためらいもなく殿方を死地に追い込んでしまう。殿方がものの道理を守る良民になろうとすれば、ご婦人は貪婪至極の悪徳官吏になり、殿方を虐め搾り上げる。しかし、いったん、殿方が人品人格を失い捨てしまっては、ご婦人の恩情関心を得ることはできないし、また財産を失ってしまっては、もはやご婦人の心を買い戻すことはできないのである。世の中の夫婦の間が、すべてがその通りだというわけではないが、こうした事態は、世間ではいたるところに見ることができるし、実際あることなのである。

 ではいったい何故こうした事態が起こるのであろうか、私は、かつて終日食事も摂らず、終夜眠らずに考えたが、その理由は得られず、判らなかった。しかし、西周生の《姻縁奇伝》を読み、豁然と悟り理解したものである。元来、人の世で、狼か虎のような女(本書では素姐のような女)は、みな前世で、人に射殺され、皮を剥ぎ取られた狐(狐精)であったり、また皮革油脂、涎、鼻汁のような男(本書では希陳のような男)が、前世では、鷹を肩に犬を従え、矢をつがえ、弓を引きしぼって狩りをやる残忍な狩人(本書では晁源のような男)であったとは誰が知ろう。このような女と男がひと処に住まい、一つの寝台をともにするのであるから、昼間は苦しめられ、夜間は逃げ隠れようもなく、打ち叩かれる。なんと痛々しく酷なことであろう。これこそ喪に服しながら、地獄の苦を味わうのとなんら変わることはない。しかし、もともと世の中の事情とはかくの通りなのである。世の中には狄希陳のような男は特に多いが、仏門に帰依する胡旦のような男は極めて少ない。希陳のような男が、たとえ万卷の金剛般若経を持って来て、やたら授業料を費やし、長口上したところで、超越解脱はできないのである。ではどうしたらよいのであろうか。それは、戒律をあくまでも守り通し、自ら厳しく殺生を戒めることなのである。そうすれば、来世では素姐のような妻に当たりはしない。結局、他力に頼ってはならず、人さまの労苦の結果を横取りしてはならない。正に、他人に求めるより、己に求めるのが良いということなのである。

環碧主人題。辛丑の年、四月十六日夜酔中書。
(訳者注:何年の“辛丑”か未だ考証できていない)

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