「新中国いろはたとえ歌留多」の連載も、この項を除いて、あと最後のの項を残すだけに、なりました。連載の中に、たびたび登場してもらった「知友・Yさん」ですが、筆者が、Yさんの人柄に大いに啓発され、Yさんの知遇を得た喜びを率直に伝えたいことから、Yさんに敬意を表して、本稿の文末に、Yさんの本名を明かさせてもらうことにしました。この項では、筆者が、そのYさんの、専属の通訳をしていたときの昔のお話しを書きます。
そのYさん、Yさんは、何処へ行くにも、いつだって、胸のポケットに電卓が入っていました。食事時であろうと、汽車の中、飛行機の中ででも、こと商売上のオファー値を出すと、さっと、電卓を取り出して、ピンポンパン、と、瞬く間に原価計算をはじき出し、それは、合う、合わない、買える、買えない、買わないほうがよい、買ったほうがよい、を、たちどころに判断できる、人でした。筆者があこがれた商社マンのプロとは、こういう人のことをいうのか、と羨望の眼差しで、眺めていたものでした。あの電卓を、すっと、取り出す仕草も、堂にいったもので、実にサマになっていました。こと自分の専門分野では、商人(ビジネスマン)は、かくありたいものです。商いに携わる人は、売ったり買ったりが、好きでなくてはいけないのでしょう、ね。当時の筆者にとっては、商い上手なYさんは、計算するのが楽しくてしょうがないように、見えたものでした。好きなればこそ、その道の上手となる道理です。
商いには、計算が大事なことはいうまでもありません。
中国の俚諺にも、ちゃんと謳われています。
「(どのように金を使うか、)事前に計算しなければ、後で乱れる。(困ることになる)」
この句は(事前に)の中に(お金)が掛け言葉として含まれているところが中国語らしいので、注目しておきましょう。
いかな商い上手、計算上手で、頭の切れる営業マンでも、やはり、日ごろの商売上のメモをきちんと、ノートに書き留めていなければ、ダメでしょう。これを密かに、キチリと、やってのけているYさんの努力は、見逃せません。どんなに、忙しくとも、ポイントとなるところは、メモしておく習慣が大切、と、Yさんに、教えられました。
「忙しくとも、まず記帳せよ。」
この俚諺には、耳の痛い営業マンがいるのではないでしょうか。
次のも同類の句です。
「忙しくとも、まず帳簿につけよ、後々あれこれ思案せずに済むから」
経理を担当したことのある人に対しても、これら俚諺は、ナカナカの箴言ですが、計算は何べんやっても恥かしいことではない、と計算のまるで得意でない筆者のような商社員を、ナグサメてくれるような俚諺もあります。
「帳簿を何度検算しても醜態ではない」
この句を見ていると、「捨てる神ありゃ、拾う神あり」、に思いが行きわたり、救われます。筆者が沈んでいるとき、決まって元気付けてくれたのはYさんでした。さて、Yさんの名前です。Yさん、とは、名古屋在住の好漢・"ヨシ"こと池田美典氏その人です。末筆ながら、池田美典氏の健康を祈り、平素と変わらぬ叱咤激励をお願いして、この項を終えることにします。
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