1996年の7月、およそ十一年ぶりに、遼寧省の瀋陽市を訪れました。友人の劉芳さんが出迎えに来てくれていました。ちょうど昼食時でもあったことから、飛行場からホテルに向かう途中に、彼女の案内で、立ち寄った"菜葉香"という名のレストランが、心に残りましたので、書き留めておきます。なにせ、ひと昔前の古い話ですから、いまだこのレストランがあるかどうかは、わかりません。
テーブルに着いて、すぐ気がついたことは、ウエートレスのテキパキした注文取り、さわやかな笑顔に、先ず「おやッ?」と、思ったのでした。そして、次には、料理の注文も終わり、待つ間、めいめいの席のテーブルの上に敷かれた紙ナプキンに書かれた文句に、引き付けられました。少し長いですが、その中国語を引用します。
というものでした。
棒線部分は筆者が付けたものです。訳してみましょう。
「菜葉香レストランは、善意からお客様に、ご忠告申し上げます。お客さまの健康のために、昼の食事には、どうかお酒は、少なめにして、午後のお仕事に差し支えないようにしてください。晩の食事には、なるべく少なく飲むように心がけ、早めに切り上げ、家族との団欒をしましょう。瀋陽の街に住む人々の食事は、多少なりとも、西洋のやり方を学ぼうではありませんか。食事は、つつましく、清潔に、経済的に、量もあまり多くせず、贅沢に無駄使いは、しないように、しようではありませんか。」
棒線部分の「昼時には酒は少なめに!」というところなぞ、中国人の昼間の宴会の騒ぎよう、盛り上がりようを、よく見かけ、知っている筆者だけに、これには、正直、驚きました。「余計なお世話だよ!」という人もいましょう。しかし、中国にこのような"お節介"ともみえることを、前面に打ち出してきたレストランが、できた、ということ自体が新鮮でした。正しく、新しいタイプの"経営者"が、出て来た、ことを物語る一例でしょう。中国は、確実に変わりつつある、と、実感した一齣でした。
「酒は飲まぬわけにはいかずとも、あまり多く飲むべからず」
やはり、こりゃ、余計なお節介、か……
酒好きの筆者は、昼でも、飲みたい時は、"もっきり"イッパイ、独りで飲(や)ります。
『たんとも飲まず、飲まぬ日もなし』っていうやつで、どうも、酒はヤメラレマセン。
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