いつだったか「チョベリグ」、「チョベリバ」などという流行語がある、と、娘や息子たちから教えられて、驚いたものでしたが、中国語には、なかなかよくできた流行語があります。標題にあげた言葉なんかは、筆者が傑作、と、思う一つです。現在の簡略字で書くととなります。意味は、「容姿スタイルをよく見せるために、寒い気候も顧みないこと」で、エエカッコし、の女性を皮肉った言葉です。直訳すると「美麗は人を凍らせる」となりますが、この(凍人)は(動人――人の心を動かす、感動させる)と、かけ言葉になっているところが、中国語の妙味です。寒さよりも、容姿スタイルを優先する女心を、ユーモラスに皮肉っているところが、ナカナカ鋭く、字面も愉快です。
周一民氏の労作『北京現代流行語』の中から、流行語というより、今では、むしろ広く一般にとけこみ、使われている言葉といっていいでしょう、ね。それらを幾つか紹介しておきましょう。
「人間誰しも三言もしゃべれば、自分の本業の話になるものだ」
というだけでは、どうも、ものたりない、プロの商人(ビジネスマン)は、のべつ幕なしに商売のことばかり話していればいい、というものでも、ないように、思います。むしろ、自分の商売以外のこと、それが何であっても、それを如何に深く話せ、相手を魅了させることができるかどうか、が、微妙に商売に跳ね返って来るように、思うからです。是非、頭の片隅に入れておいてほしい言葉たちです。
以下、イタズラ心で、王蒙の詩を、井伏鱒二風に、訳してみました。
(王蒙)
「ソンナニカタヒジハッテドースルノ、
ソンナニオロオロシテドースルノ、
アソビゴコロノナイトコニャ、ユーモアウィットハウマレナイ」
北京・新スラングたち
「首にする、解雇する」の意。直訳すると「イカを炒める」となります。これは、広東語から来た言葉で、イカを炒めるとクルクル巻きあがりますね、この様子から来た言葉、といいます。つまり北京語の(布団を巻く)の喩えが「暇を出す、暇を出される」の意味で使われていたことから、よくこの(除名する)とか(解任する)などと同じ意味に使われるようになりました。
「タクシーに乗る」の意。
「タクシー」は、今や英語のTAXIからきたはと同じ意味となります。
「香港ドル」のこと。ブラックマーケットでの符牒。ちなみに日本円は米ドルはと呼びます。ついでに、十元は、百元は千元は一万元はとそれぞれ呼びます。ですから、例えばとは五万円。となると「八百ドル」。とは、「六千香港ドル」となります。
「深く考えずに成り行きにまかせてコトを行う」の意。これは、台湾の流行歌『跟着感覚走』からきています。陳家麗作詞、陳志遠作曲。という女性歌手が「台北、東京」というアルバムで1987年1月に発売。日本で受け入れられるや、台湾で大ブレーク、彼女の新境地を開いた曲、と、いわれています。これが、何故か中国で流行るのです。それが現在の中国といえましょうか。
「帳簿外の勘定書」のこと。客から受け取った金を全額帳簿に記帳せず、一部くすねて自分のフトコロに入れることを意味します。例えば「彼はくすねた金で成り上がったんだよ」というように使います。
「お祝いや謝礼のときに、紅い紙の袋に包んで渡すお金」のことですが、一般的に「袖の下、賄賂」を指していうことが多いですね。中国では、これは欠かせません。。
「生ビール」のこと。しかも瓶詰めのではなく、量り売りのものを指します。広東語からきた語で、英語のdraft beerの音訳です。普通、使われる北京語は、とかといいます。
「お金を持っている男」のことを仲間内で、なれなれしい口調でいう際に、使われます。外出には、タクシー、食事は、高級レストラン、身につけるものは、有名ブランドものと、まあ、羽振りのイイお兄さんのことを指します。また、この類の女は、というと、といいます。ときどき、中国の空港内で、派手ハデ女性を見かけますが、こういう人をいのでしょうか。でも、そのバックにはがいたりして……中国の国内線の空港には、それこそいろんな人を見ることが出来て、興味が尽きません。
いわゆる「外人さん」を指していう場合と「素人さん」を指していう場合もあり、両方の意味のニュアンスを持っていう場合も、あります。当然、われわれ日本人が中国へ行くと、裏ではと呼ばれているわけです。
「エロビデオ、裏ビデオ」のこと。毛沢東の映画では、ありません。ついでですが、毛沢東のことをとも、スラングでいいます。文革中に、よく云った(毛主席さま)からきています。
「決済する、可否を決定する」の意。直訳すると「拍子木を打つ」となりますが、責任者が、最後の決定を下す、という意味で、商売上でも、よく使われる言葉です。
「贈答用瓶詰めのお酒」の意。コネをつける際の一種の"武器"。酒とくれば、次は、タバコですね。これは(火薬の包み)と、物騒な表現をします。いずれも、戯れ、ふざけていう言葉にちがいありませんが、なにかキキメがありそうな、感じがします。
「海外留学や海外に出稼ぎに行くこと」を揶揄的に言ったり、冗談っぽく言ったりする際に使われます。八十年代の後半から九十年のはじめにかけて、海外留学の大ブームがありました。海外を目指す中国人が、我もわれも、と、海外にいる知人のツテを求めて、保証人を得ようと、必死になっていました。やっと、晴れて留学にこぎつけても、日本での生活は、楽であるわけはなく、中には、寝食忘れんばかりに、一日中働きづくめで、奮闘しなければならなかった人も、いたようです。
今は昔、文化大革命というのがあって、そのさ中、といって、幹部や知識分子が地方農村などの現場へ行かせられ、働かされたわけですが、こうした状況下で使われた言葉に、というのがありました。若き知識人らが、人民公社の生産部隊へ入り、慣れない労働をしたのです。これが正しく、留学した挙句の厳しい過酷なサマに似ているというところから、(洋行部隊)なるスラングができたのだといいます。
中国語が不得手、というビジネスマンでも、以上挙げた言葉のひとつでも覚えておくと、話の種にはなりましょう。
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