上海に虹橋賓館というホテルがあります。1997年8月のことでした。上海に駐在する友人が二次会に、案内してくれたところは、ここの何十階だったかにある、ディスコ・カラオケバーでした。見るからに"らしき女"が騒然とした闇の中に、まさしく、ピョンピョン跳ね回っていました。彼女たちの本来なら、色っぽいハズの流し眼が、サーチライトのようにあたりを照らし、時々見せる興ざめなほどに、鋭い眼光、今宵かぎりの男を射止めんか、という彼女らの必死さ加減が、伝わって来たように記憶します。
当時、ここに入場するには、まず、九十元(約千二三百円)の一杯の軽ドリンクつきの入場料を、支払わねばなりませんでした。ガンガンとディスコの音曲が鳴る薄暗い中をぬって、席につくと、「待ってましたぁ!」とばかり女たちが、横につきます。ここで相手をする、しないは、あなたのナニ根性とフトコロ次第。「いっぱい、おごれ」という女の執拗な口説き文句に耳貸さず、適当にあしらえば、女はさっと引いて行きます。女たちは、今宵をともにしてくれるであろう"白馬王子"を捕まえるまで、血眼になって相手を探すことになります。まずは、一杯の軽ドリンクをせしめるのが第一関門突破。この一杯の"お近づき代"を客に払わせんかと、かなり強引、と、思える色気で、ムンムン迫ってくる商魂は、実に、たくましい。日ごろ、若い女性に縁のないオジさんのわたしは、あまりに激しく、迫ってくる女(こ)にとまどい、ツイツイ財布のヒモをゆるめ、中身を覗かれながら、ドリンク代をせしめられていました。どうか、気をつけなされ。
聞くと、上海地区の鉄砲お女郎さんは、一きり、八百元(約一万二千円)、日本人の相場ということでした。中国の"品物"は何によらず、日本人向けが一番高い、のは、ここも同じでした。今は、もっと上がっているらしい。
今や、国内線専用になった虹橋空港から市内に向かう高速道路越しに、今もなお《虹橋賓館》という大きな看板文字が見えます。あのディスコ・カラオケバーはまだ営業しているのでしょうか……いかせん、もはや覗く元気はありません。
「お女郎さんのお顔――お金を見て笑顔をみせる」
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