遼寧省瀋陽市には、二十年近くお付き合いをさせてもらった朋友・劉文国さんがおりました(2000年9月8日逝去)。その劉さんから教わった俚諺に、
というのがあります。これを直訳したものが標題です。これは明らかにあの有名な、
「天に極楽浄土あり、地に蘇州杭州あり。」(蘇州杭州の美しさを喩えて表現した句)
という俚諺を意識して、ひとひねりした表現と想像がつきます。
「上に国務院あり」、このとは、国の一大事を取り決める「内閣」のこと。上には、庶民にとっては、雲の上の"お上"の存在がある一方、「下に街道弁あり」、とは、お上の取り決めた諸事すべてが、すんなりと行われているかどうかをチェックする「お役所」のこと。この組織が一般庶民の傍に、後ろに、ぴったりと張り付いているといいます。この街道弁の下部組織にはがあって、この委員会が、直接地区の居住民と接触し、お上の政策を伝達する、という図式です。どんなことをするのかというと、
・治安、防犯
・公衆衛生
・冠婚葬祭の手続き
・居住区の緑化
・貧民身障者の救済
・娯楽活動
などなど。いちおう恰好のよい言葉が並べられておりますが、結婚、出産、はたまた離婚届から、老人のバス定期などの優待券の入手手続きなど、その居住区民の身辺に起こる一切とことを、この街道弁――居民委員会が執り行う、というのですから、全体のニュアンスからすると、どうも、この街道弁とは、けむたい、ヤッカイな存在のようにも見えます。このあたりを皮肉っぽく、昔の俚諺をもじって表現するところなどは、ナカナカしたたかなのですが、中国社会の一端を垣間見ることができるようにも、思います。しかし、どんなに、上に"政策"があっても、下には下で、その政策に対抗する"対策"があるものだ、という言葉があるのですから、これまた中国的です。
「上に政策あっても、下にはそのまたその対策があるものよ」
「アンタに税法がある、っていうなら、アタシにゃ、逃れる法がある、ってこと」
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