1996年もおしせまった12月、過去に幾度となく足を運んだ黒龍江省の桃山のベニヤ工場を、久々に訪ねました。社長に坐っていたはずの陳忠興氏は、すでにこの工場を離れており、寥薛智という方が、シンガポールの親会社から派遣されて、ボスの椅子についておりました。やはり、陳氏同様、請負社長でした。中国にある合弁企業の工場と取引をする際には、こうした人事面でも、十分みきわめた上で、商売をしていく必要があります。なぜなら、あなたが、僅かでも、そこに投資をするにせよ、製品の見返りに、設備機械を提供するにせよ、出したはいいが、ある日突然、その社長が消え去っていて、しないでもいい苦労、辛酸を舐めるはめになってからでは、遅いからです。もっとも、商売にかぎらず、ナニゴトも、標題の句のように「為すようにならない」で、それでいて「成るようになっている」のですから、不思議といや不思議。人の世は、ジツに泣き笑い人生哉、とでもいいましょうか……中国貿易は、ことにコノ感じがしてしまいます。しかし、こんな諦観ごとき感覚では、行き倒れも免れません。そこで、といってはなんですが、ここでは、その桃山の工場を訪ねた際に、寥薛智社長より教えていただいた「経営者への誡め十六か条」なるものを列記して、ズボラを決め込みましょう。
一、 商売は、勤勉にやるべし。怠けは、万事を無駄にする。
二、 支出は、倹約を旨とせよ。贅沢は、財力を枯渇させる。
三、 人をもてなすに、和気藹々たれ。せっかちは、損失を招く。
四、 売り買いは、機に乗じてすべし。引き延ばしは、時機を逃す。
五、 人を用いるには、厳正不偏を旨とせよ。詭計を弄すれば、反って面倒に巻きこまれると知れ。
六、 取り決め価格は、明瞭に定めるべし。曖昧にすれば、争いが多くなる。
七、 掛けでの売り買いは、相手をよくみきわめよ。やたら度を越すと、元手を手痛く掏ってしまう。
八、 商品は、整理整頓すべし。散らかしていると、使いものにならなくなるものが必ず残る。
九、 帳簿は、マメに目を通せ、怠けると、元手が滞る。
十、 優劣は、はっきり分けるべし。それをなおざりにすると、イイカゲンになり、おかしなことになる。
十一、 出納は、慎重にやるべし。気を抜くと、誤り、漏れが多く出る。
十二、 取引は、その場その場で、はっきりさせよ。やたら引き受けると、元を失って売ることになる。
十三、 期限は、守るべし。引き延ばしは、信用を失う。
十四、 金財産は、はっきりすべし。デタラメは、弊害を生む。
十五、 火急時には、敢えて責任をかぶれ。責任の他人転嫁は、弱虫と知れ。
十六、 経営は、冷静にやるべし。盲目的にやれば、誤りが多く出る。
以上、誰でも分かりきったことなのに、と思うなかれ、です。正(まさ)しく箴言(しんげん)とはそんなものなのですから。中国人が自ら発する訓戒ですから、われら外国人にとっては、十分参考になるはずです。
上記の、どの条項が、あなたに、欠けていたところでしょうか? また、実践されているところでしょうか?
この十六条の中国語を参考までに、列記しておきましょう。これは、寥薛智氏の親会社の創業者が、あとを継ぐ者に残した"訓戒"とのことです。
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